少し前になっちゃいましたが、静岡ユネスコ協会さんの年間を通じた講座のトップバッターとして、40名ほどの方々に実技を交えた講演を行ってきました。
今回は通常の講座でお伝えしていることをベースに講演を行いましたが、それだけではなく「文化としての体の使い方」という観点でお話もさせていただきました。
そう、体の使い方は文化なのです。
世界中、それぞれの土地で生まれ育った人たちはその土地なりの体の使い方を受け継いでいます。
日本人なら日本の文化に沿った、アメリカ人ならアメリカの文化に沿った体の使い方をしています。
現在の生活様式から生じるものはもちろんのこと、何百年、何千年と繰り返してきた生活スタイルによって自然と受け継がれてきた「体の使い方」、「動き方」というものがあります。
日本では稲作が中心ですが猟や漁もする。建材は主に木材なので森での作業も多い。そして全体的に山がちな地形。
田畑と山林、そして海。
これらのフィールドを主な生活の場としてきた日本人と、広大な開けた土地(例えばモンゴルの高原やエジプトの砂漠など)で生活してきた人たちとでは、必要となる「動き方」が異なるのは当然のことです。
それは親から子、孫という繋がりだけでなく、周りの年長者たちなどから社会的に連綿と受け継がれてきたもので、「文化」以外の何物でもありません。
私たちはまず赤ちゃんの頃、周りの大人や子供たちの動きをよく見ています。
それをヒントとして、自分が生まれた環境に必要な「動き方」を習得しようと必死になります。
オオカミや猿に育てられた子供たちのエピソードからもこのことはよくわかります。
私たちはこれを無意識に行っています。
それも、大人になってからでは到底不可能なほどの集中力で行っています。
このため、周りの大人たちの動き方が異なれば、習得していく「体の使い方」も自然と異なってくるのです。
さてそれでは、現代人である私たちはこの「文化としての体の使い方」をどれほど受け継いでいるのでしょうか。
小さいころから昔ながらの暮らし、すなわち井戸から水を汲み、薪を割って火を起こし、牛を使い田畑を耕し、農作物を背負って峠を越えていくような生活を送ってきた人はどれほどいるでしょうか?
僕はそんな方にお会いしたことはありません。生まれた時の環境にはそんな大人は一人もいませんでした。
となると私たちは、「体の使い方」という生命活動の基本ともなるべき「文化」を受け継いでいると言えるでしょうか?
とてつもない集中力を発揮する幼少期に、人類が連綿と受け継いできた生活の仕方とそれに対応する体の使い方をしている人を見たことがなければ、自然と受け継ぐことなど不可能なことは誰が見ても明らかです。
これが甲野先生が繰り返し仰ってきた「現代は人類史上初めて伝承が途絶えた時代」という言葉の意味するところだと思います。
「伝承」というのはなにも伝統芸能や技術のことだけを指しているわけではなく、全員の体の中に無意識に宿っているもの全てを指していると言っていいと思います。
「体の使い方」というのは「文化」であり「生きるための方法」そのものなのです。
普通に暮らしているだけでこの「生きるための方法」を身に付けることのできた昔とは違い、現代はほとんどと言っていいほどその機会がない時代です。
生きるための具体的な方法がわからないのだから、私を含め多くの人が体を壊し、精神も病むようなことになるのは至極当然な時代なのだと思います。
しかし私は幸運なことにも甲野先生という存在を通して後から知ることができ、そのおかげで体の不調は全て克服したうえ、体の使い方を知れば知るほど動き方が進化していくという、体を壊していた時代からは想像もできないような人生を送ることができるようになりました。
生きるための具体的な方法である「体の使い方」は「文化」そのものであり、僕がこれを研究し伝承していこうとするのは、皆が自然と関心を持ってその輪が広がり、後世まで発展させながら受け継いでいこうとする新たな「文化」を育てたいと思っているからです。
静岡ユネスコ協会さんの設立目的には次のようなことが書かれております。
「ユネスコ憲章の基本精神である教育・科学・文化の推進を通して国際理解と国際協力をすすめ、世界の平和に貢献するとともに、地域の中で「平和の文化」を築く活動を促進しながら会員相互の交流を深める。」
「体の使い方」を知り身に付けることは、自分が真の意味で自立して生きていくことにつながり、他者との対等な関係を築く礎として「平和」を実現する「文化」なのではないかと思います。
「体の使い方」は単なるエクササイズや運動といったものではなく、その人一個人の問題というだけでもなく、地域全体や人類全体の共通課題でもあると思います。
このようなことを、これからも広くお伝えしていきたいと思っています。
今回このような貴重な場にお招きくださった静岡ユネスコ協会の森谷さん、ご紹介くださった森さん、そして会場にお越しいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
また機会がありましたら新しい話や技も携えて伺いますので、「平和の文化の創造と伝承」を実現するため力を尽くせればと思います。
宜しくお願い致します。
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